父と最後に釣りに行ったのは、3年前の秋だった。父は昔から釣り好きで、子どもの頃はよく連れて行ってくれた。大人になってからは忙しさにかまけ、父との時間も減っていた。そんな中、父が「一緒に釣りに行かないか」と誘ってきた。
場所は地元の湖。朝4時に起きて、眠い目をこすりながら準備。湖畔に着くと、静かな水面と朝霧が幻想的だった。父は手慣れた様子で仕掛けを準備し、私は子どもの頃を思い出しながら竿を振った。数時間、魚は全く釣れず、父と「今日はボウズかな」と笑い合った。
昼近く、父が大きなブラックバスを釣り上げ、得意げに笑う姿に、なんだかホッとした。帰り道、車の中で父が「こうやって一緒にいられる時間が嬉しい」と言った。その言葉が、胸に刺さった。翌年、父は病気で入院し、釣りに行く体力はなくなった。今、父は回復中だが、あの日の湖の静けさと父の笑顔は私の宝物だ。いつかまた、父と竿を並べたい。